膿疱性乾癬とは
膿疱性乾癬は、乾癬の中でも最も重症なタイプで、日本では乾癬患者のおよそ1パーセント、約2000人が罹患しており、また一年間におよそ80名が膿疱性乾癬にかかっています。発症のピークは50代から70代で男女差はありませんが、妊娠を契機に発症する方もいるため20代から30代では女性が多くなっています。
膿疱性乾癬の症状
膿疱性乾癬の皮疹は尋常性乾癬とは異なり、紅斑に粟粒大の多数の無菌性の膿疱が現れ(画像①参照)、皮疹のある部位には刺激的な強い痛みを感じることがあります。そのため外用剤を塗布する時に苦痛を感じることがあります。

また、病状が落ち着いた状態から、風邪や薬剤の使用など何らかの要因がきっかけとなり、灼熱間を伴なう急激な皮疹の増悪と共に、倦怠感や高熱を発することがあり(急性増悪=フレア)、このような時には、直ちに医療機関にかかり、適切な治療を施さなければなりません。近年は医学の発展と共に少なくなりましたが、稀に不幸の転帰を辿る場合もあるため、自己判断せず、速やかに受診する必要があります。
適切な治療を施すことにより、症状は徐々に軽快しますが、再燃と寛解(病気の素因はあるが病状が出ない状態)を繰り返す性質もあり、継続的な治療が必要です。
皮膚以外の症状について
膿疱性乾癬は皮膚症状のほか、関節に症状の出る乾癬性関節炎や、ぶどう膜炎など眼科の症状を合併することがあります。また全身の炎症が長く続くと、稀に腎臓などの消化管や心臓などの臓器にアミロイドという線維状のタンパク質が貼りついて障害を起こす、二次性アミロイドーシスを発症することもあるため、放置せずにしっかり治療に取り組むことが大切です。
- 倦怠感や疲労感が強い
- 関節炎を併発する確率が少し高い
- 症状によっては入院治療になることも
- 急速に皮疹が広がり、高熱が出て、場合によっては薬を塗るのも辛い
膿疱性乾癬の発症について
発症原因やメカニズムは未だ完全には解明されていませんが、近年は研究が進み、いろいろなことがわかってきました。
膿疱性乾癬の発症には、皮膚の免疫反応と細胞の増殖が関与しており、免疫系が誤って正常な皮膚を攻撃してしまうことで起きた炎症に、サイトカインと呼ばれる生体の細胞間の連絡や作用に関与するたんぱく質(インターロイキン)が放出され、炎症とサイトカインの影響で皮膚の細胞が増殖し、膿疱が形成されます。そして異常な細胞の増殖と炎症が続くことで、皮膚の再生が妨げられ、症状が悪化します。
近年の研究により、一部の汎発型膿疱性乾癬の患者には、炎症反応を抑えるインターロイキン-36受容体拮抗因子(IL-36Ra)が遺伝的に欠損している場合があることが明らかになりました。また、炎症を引き起こすCARD14遺伝子の機能が通常よりも過剰に働いているケースも確認されています。つまり、炎症を制御する役割の物質が不足しているか、逆に炎症を促進する物質が増加しているため、全身性の炎症が容易に生じ、皮膚に赤みや腫れが発生するのです。他の原因についてはまだ完全には解明されていませんが、感染症や妊娠などを契機に皮膚の細胞やリンパ球がサイトカインを分泌し、これが高熱の原因となり、血液中の白血球を皮膚に集めて膿疱を形成することが考えられています。
※参考文献
難病情報センターホームページ(令和7年2月現在)より引用、改変
膿疱性乾癬の治療
ビタミンA誘導体(レチノイド)の内服と光線療法を組み合わせた治療や、シクロスポリン、メトトレキサートなど免疫抑制剤の内服、ステロイド外用剤や活性型ビタミンD3外用剤の塗布、顆粒球単球吸着療法などの治療のほか、2010年以降、生物学的製剤による治療が可能となり、劇的な効果が期待できるようになりました。更に2022年には、急性期に急速に悪化する症状を効果的に抑える、膿疱性乾癬に特化した新しい生物学的製剤が誕生するなど、膿疱性乾癬の治療は劇的な進歩を遂げてきました。
医療のかかり方
医療機関の選択
日本皮膚科学会のホームページから、まずは皮膚科専門医を探し、その皮膚科医が所属する医療機関のホームページなどを参考に、「乾癬」を積極的に診る医師か否かを判断します。また、膿疱性乾癬は悪化した際には入院が必要なケースや、急速に症状を鎮める薬の投与が必要なケースもあり、開業医のクリニックでは対応が難しいこともあるため、まず最初は設備の整った総合病院、大学病院などにかかられることをお勧めします。

初診の準備
いつから、どのような症状が出て、どんなことに困っているのか、初診の際に説明できるように、ノートや手帳など紙に書いてまとめておくと、説明がしやすくなります。また、これまでどのような治療薬を使って治療をしてきたのか正しく伝えられるように、お薬手帳を持参しましょう。
治療の選択
膿疱性乾癬の治療には様々な治療選択肢があります。指定難病であるために、医療費助成制度が利用でき、患者の自己負担が軽減されます。病状のほか仕事や家庭の事情など生活のバックグランドも考慮し、主治医の先生と話し合い、ご自身にあった治療を選択しましょう。
主治医との関係
病気の治療をするにあたり、主治医との信頼関係はとても大事な要素となります。病気や治療に対する不安や希望などがあれば、主治医の先生に遠慮せずに相談しましょう。近年は、SDM (Shared Decision Making=「共有意思決定」) といって、医師と患者が科学的根拠に基づいた治療法を共有し、一緒に治療方針を決定するという考え方が診療の場に浸透してきています。主治医の先生と、病気の当事者である患者さんの目標は同じはずであり、治療方針は納得するまで話し合い、共にゴールを目指しましょう。
悪化時の対策
悪化の兆候
膿疱性乾癬は、風邪や薬剤の使用、妊娠、その他の要因により、急性増悪(フレアアップ)することがあります。そのような時には、全身に膿疱をともなう灼熱感のある皮疹があらわれ、さらに強い倦怠感と40度前後の高熱が出て、直ちに適切な治療を施さなければならない状態になることがあります。
医療機関への連絡
そのような状態に陥った時には、次の診察予約を待たずに治療を受け、状態によっては入院治療をしなければならないケースもありますが、このような状況になることも想定し、突然に急性増悪した場合にはどうしたらよいか、病院に電話で相談することが可能かなど、主治医の先生と普段から話し合っておくことが大切です。しかし、もしそのような話し合いができていなかったとしても、急性期には躊躇せずにまずは病院に連絡し相談しましょう。

応急処置
自分でできる処置について
急性増悪した際に、やむを得ない理由ですぐに医療機関にかかれない場合には、可能であれば主治医の先生のいる病院に連絡し、対処方法をアドバイスしてもらいましょう。例えば40度前後の高熱がある場合は消炎鎮痛剤の内服、おびただしい数の膿疱を伴う皮膚症状が現れた場合には、ステロイド外用剤の塗布が必要な場合もありますが、手持ちの薬での応急処置が可能な場合もあります。但し、自己判断での治療は返って症状を悪化させる可能性もあるため必ず医師の指示に従うようにしましょう。
やむを得ず主治医以外の医療機関にかかる場合
旅行時などの外出先や、主治医のいる病院から自宅が遠いなどの理由で、やむを得ず主治医以外の医療期間にかかる場合には、どのような症状が現れているか、何が辛いかなど、明確に説明できるようにしましょう。また、膿疱性乾癬の治療で普段かかっている医療機関と主治医の名前を伝えましょう。医療者間で連絡をとり、連携した治療を受けられるケースもあります。

日常生活について
食生活について
特に食べてはいけないものはありませんが、バランスのとれた食事をとることが大切です。食べすぎは過剰なカロリー摂取となり、膿疱性乾癬に限らず、健康管理上、好ましいことではありません。また、近年の研究で、乾癬は皮膚のみならず全身の病気であることがわかっており、心血管系の疾患(心筋梗塞、狭心症、心不全など循環器系の病気)との因果関係も指摘されています。これらは、場合によっては命にもかかわるものですので普段から健康的な食生活を心がけましょう。
飲酒について
飲酒も厳禁ではありませんが、飲みすぎはよくありません。飲酒をすると、交感神経が刺激され、血流が増加して毛細血管が拡張し、痒みを来たしたり、皮疹の悪化につながることがあります。お酒は適量を守りましょう。
喫煙について
タバコは膿疱性乾癬に限らず、健康上も「百害あって一利なし」と言われています。乾癬の発病、悪化も、医学的に喫煙との因果関係が証明されています。できるだけタバコは止めましょう。
規則正しい生活
膿疱性乾癬に限らず、病状を少しでも改善しようとするとき、意外と軽視されがちなのが、「生活習慣」です。どんなに良い治療を行なっても、基本的な生活習慣が乱れていると、治療効果もそれなりにしかならないこともあるため、規則正しい生活、十分な睡眠の確保など、是非、生活習慣の見直しを行ないましょう。
適度な運動
症状が酷い時や、強い関節症状が続いているような時には、運動は禁忌となる場合がありますが、症状が落ち着き、寛解しているような時には、ウォーキングなど少し汗ばむ程度の無理のない運動を心がけるようにしましょう。
ダイエットについて
食生活を見直し、無理のないダイエットを行なうことは、乾癬の症状を和らげることに繋がることもあります。しかし、無理なダイエットは、健康に害を及ぼすことにもなりかねないため、主治医や保健師などに相談の上、実施することをお勧めします。
医療費の助成制度について
膿疱性乾癬は、厚生労働省が指定する「指定難病」の対象疾患となっており、確定診断された場合に申請すると、医療費の一部を公費で賄うことができます。自己負担の金額は、所得や重症度、また治療にかかった年間の医療費などにより区分けされます。
尚、「膿疱性乾癬(汎発型)」という全身性の膿疱性乾癬が対象であり、次の場合を除きます。
- 手足や体の限られた部位にのみに膿疱を伴なう皮疹のある限局型の場合
- 先行する尋常性乾癬がステロイドの加療により、一時的に膿疱が出現した場合
階層区分 | 受給者証 での表記 | 階層区分の基準 | 一般 | 高額かつ長期 ※1 |
---|---|---|---|---|
生活保護 | ― | 0円 | 0円 | |
低所得1 | 1 | 区市町村民税非課税(世帯)、 かつ本人年収80万以下 | 2,500円 | 2,500円 |
低所得2 | 2 | 区市町村民税非課税(世帯)、 かつ本人年収80万超 | 5,000円 | 5,000円 |
一般所得1 | 3 | 区市町村民税課税以上 7.1万円未満 | 10,000円 | 5,000円 |
一般所得2 | 4 | 区市町村民税7.1万円以上 25.1万円未満 | 20,000円 | 10,000円 |
上位所得 | 5 | 区市町村民税25.1万円以上 | 30,000円 | 20,000円 |
入院時の食事療養標準負担額及び 入院時の生活療養標準負担額 | 全額自己負担 |
※1「高額かつ長期」とは、難病の医療費助成を受け始めてから後、月ごとの医療費総額(10割)が5万円を超える月が年6回以上ある方を言います。
また、症状が完解し、治療を施さなくても完解維持が可能になった場合は、対象から外れますが、万一再燃し、医師があらためて「汎発性膿疱性乾癬」と診断した場合には、再度申請することが可能です。
膿疱性乾癬は患者数が少ない希少疾患ですが、10年前と比較し、その治療は飛躍的に発展しています。残念ながら、現在のところ原因の全容解明と完全に治癒させる治療には至っていませんが、それでもしっかり治療と向き合い継続することで、少しでも良い状態を維持することは、必ずしも不可能ではない時代となりました。悲観せず、病気と向き合い、しっかり治療を行なっていきましょう。
膿疱性乾癬についての解説動画
Coming Soon!
膿疱性乾癬の患者さん体験談
【汎発性膿疱性乾癬】患者体験談①
~ 膿疱性乾癬と私の思い ~
P-PAT 理事長 添川 雅之 氏
【汎発性膿疱性乾癬】患者体験談②
~ 私の息子は膿疱性乾癬 ~
高岡 千菜美 さん